今の日本で九九と言えば、「かけ算九九」を指します。しかし、「わり算九九」もあるのをご存知でしょうか。先日、見学した「そろばん資料館」で手に取ってみた「塵劫記(じんこうき)」(江戸時代の数学書)でも「わり算九九」の解説がありました。江戸商人たちの間で、かけ算・わり算は瞬時にできなければいけない必須技能でした。「わり算九九」は、昭和の中ごろまでは一般でもよく使われていたようです。特にそろばんで行なうと効率良く計算できます。
さて、九九はどこで始まったのでしょうか。『朝日新聞』9月1日第30面の記事「九九のはじまりは?」に、「中国で生まれて、日本に伝わってきた」とあります。日本でも税制が施行されるようになった7世紀ごろから、田んぼの面積や徴税額の計算で必要でした。紙がまだ貴重だった時代、日本で発掘された木簡には、かけ算九九が書いてありました。
九九が中国から伝わったというと、「えっ、中国にも九九があるの?」と驚く人が時々います。漢字や仏教だけでなく、天文学・算術・医術・建築技術など、さまざまな理系技術が、遣隋使・遣唐使によって日本に導入されました。
おもしろいことに、九九は元祖である中国語の方が発音しやすく覚えやすいです。日本語では、2、3、4、5、9が、に、さん、し、ご、く(きゅう)、と1音節であるのに対し、1、6、7、8が、いち、ろく、しち、はち、と2音節になります。しかし中国語ではすべて1~10までの数字が1音節であるため、かけ算九九の音節数がきれいにそろい、日本語のかけ算九九以上にリズムに乗りやすいのです。
たとえば、「2×2=4」は日本語が「に・にん・が・し」、中国語が「アァ・アァ・ダァ・スゥ」とどちらも4音節です(答が1ケタの場合「=」を日本語では「が」と読みますが、中国語は漢字「得」を当てて「ダァ」と発音します)。「3×6=18」は、日本語が「さ・ぶ・ろ・く・じゅう・は・ち」と7音節に増える一方で、中国語は「サン・リゥ・シィ・バァ」と4音節のままです。音節数が不規則な日本語九九よりも、音節数が一定の中国語九九は口唱しやすいです。中国語を勉強する際に九九から入ると、中国語の数字をすぐに覚えられます。
私の姉の息子が、今インドの大学で留学しています。今度彼と会ったら、インドの九九がどのようなものかを聞いてみたいとおもいます。インドでITなどの理系技術者が大量に輩出される背景に、インドでは20×20まで九九を覚える高度な計算力があると言われています(九九を超えていて九九とは言えませんね)。彼らは算数の授業でどのようにそれらを習得していくのか、またインドの九九は日中の九九のようにリズミカルで覚えやすいのかなどを聞いてみたいです。
買い物のおつりの計算程度でも頭が混乱してしまう多くの欧米人に比べ、アジア人は2ケタの加減乗除ていどなら、ほぼ誰でも難なくこなしてしまいます。アジア人の計算力の支柱でもある九九の比較は一興です。
門樹