≪もんじゅ≫の音読・書きとりコースでは、古典・近代文学作品の抜粋の暗誦をしています。
今週の小学校2年生のテキストには、石川啄木(いしかわ・たくぼく)の有名な一句
ふるさとの訛なつかし 停車場の人ごみの中に そを聴きにゆく
を取り上げました。
岩手県から17歳で上京した啄木が、上野駅で詠んだ歌です。駅の中にその碑があります。
教科書に出てくる彼の有名な詩には他にも次の2首があるでしょう。
はたらけどはたらけど なおわがくらし楽にならざり ぢっと手を見る
たはむれに母を背負ひて そのあまり軽きに泣きて 三歩あゆまず
教材を作るにあたって、改めて彼の詩集『一握の砂・悲しき玩具』(新潮文庫)を読んでみました。
明治末年の1912年に、若干26歳の生涯を閉じた石川啄木の詩集は、
赤裸々なまでの肌感覚が伝わってくるものばかりです。
以下に、啄木のあまり知られていない詩をご紹介します。
村では神童と呼ばれ、17歳で上京、20歳で処女詩集を発表したけれども、
病魔に侵され床に臥した苦しみが、詩上にしぼりだされています。
真夜中にふと目がさめて わけもなく泣きたくなりて 蒲団をかぶれる
いきすれば 胸のうちにて鳴る音あり こがらしよりもさびしきその音
女性を想う啄木もいます。
かなしきは かの白玉のごとくなる腕に 残せしキスの痕かな
うるみたる目と 目の下のほくろのみ いつも目につく友の妻かな
引越しの朝の足もとに 落ちてゐぬ女の写真 忘れゐし写真
小奴といひし女の やはらかき耳たぶなども 忘れがたかり
生後わずか3週間ほどで亡くなった愛息を悲しむ啄木の慟哭。
夜おそく つとめ先よりかへり来て いま死にしてふ児を抱けるかな
かなしくも 夜明くるまでは残りゐぬ 息きれし児の肌のぬくもり
全体的に暗いのですが、読んでいて気分が重くなるというよりは、
夭折した天才詩人の才華に感じ入って、一気に全ページを読み通してしまいます。
秋の夜長、ご一読をおすすめします。
門樹