今日は、子どもや若者に対するキャリア教育について少し書きます。≪もんじゅ≫の生徒さんたちに話を聞くと、中学生は「キャリア体験」との名目で、近所の各種施設や商店街で4日前後の職業体験をしているといいます。近所のパン屋さんや酒屋さんでも中学生が慣れない手つきで、一生懸命お手伝いをしています。≪もんじゅ≫のある町田市のホームページを見ると、中学生の「職場体験事業」として、実施に協力してくれる事業所や店舗を募集しており、協力事業所等に感謝状を贈っています。

 文科省は小学校向けにも「小学校キャリア教育の手引き」を作成し、冒頭「はじめに」で「激しい社会の変化の中で将来直面するであろう様々な課題に 対応しつつ社会人・職業人として自立していくことができるようにするキャリア教育の推進 が強く求められています」と書いています。硬い文言ですが、裏を返せば、これまで個性や技能を軽視して単純な知識教育に埋没していた教育界が、バブル後の不況下でも何らかの仕事を自分で獲得できる、または創り出せる人材の育成に舵を切り始めたと言えます。

 ある公立校の先生は、「職場体験でどの子をどこで働かせるのかが難しいんです。高学歴・高収入の親の中には『うちの子は弁護士事務所や会計事務所で体験をさせてください』と言う人がいましてね。そちらの専門を学ぶ大学生のインターンではないのだから、それはできません、とお断りせざるを得ません」と苦笑して話していました。小学生のうちは学校で学ぶ知識や技能が世の中で役に立っていることを伝え、そこで真剣に働く大人の姿を見せることが主眼になるのでしょう。

 かつて大学で教えていた私の経験から言えば、これまで日本の大学生の就職活動で、特に文系ではほとんど専門性が問われてきませんでした。しかし、近年の就職活動では文系でも、大学で何を勉強し何ができるのか、インターンシップではどのような職業体験をしたか、将来は何をやりたいのかを明確に説明できなければ、採用にはつながりません。かつてのような「サークルで人間関係を学びました」「アルバイトで接客をしました」などという学習活動と関係のない口上は使えません。

 私自身、20年ほど前に自分の学生を企業でインターンシップや体験授業で受け入れてもらおうと、母校の知り合いに話を持ちかけたことがありました。「何の職業体験もない大学生を企業が大学名を中心基準に一斉採用した結果、3割が3年以内に退社するらしい。それは企業側にとっても損失なはずだ。これからはそうしたミスマッチが起こらないように、早くから社会全体で若者を育てる時代だと思う。企業も大学生に『働く』とは何かを教えてもらいたい」と説明しました。

 しかし、当時は文系学生のインターンシップという制度が日本ではあまり知られておらず、「学生の教育は大学の役割だろう。何もできない子どもを企業に押し付けられては迷惑だ」「お宅のような中堅大学では、受け入れるメリットがない」などと断られたこともありました。当時、就職の面接で企業はよく学生に「大学で学んだことについては期待していない。まっさらな状態でわが社に入ってほしい」などと言っていた時代です。企業は、まるでモノを言わない高性能な機械を欲しがっているかのような扱いでした。

 さて、小中学生のキャリア教育に戻しましょう。先日、≪もんじゅ≫では気象庁見学をしました。見学後に参加した小学6年生と中学2年生の男子に感想を聞くと、「気象情報の大きなモニターがいっぱい並んでいて、専門の人たちが話し合いながらそれを分析しているのがカッコよかったです。感動しました」と言っていました。全国各地からの観測情報を集めて予報図を描き、数式を使って分析する。テレビ会議もしていました。「理科」「数学」「情報」が活かされている現場を目の当たりにできたわけです。

 気象庁見学の後は皇居参観に行きました。参観者は300人余りいて、その7割が外国人でした。近年、爆発的に訪日外国人旅行者が増えているためです。宮内庁はスマホで皇居参観アプリを用意して、6ヵ国語で読むことができるようにしていますが、肉声によるガイドは日本語のみでした。1時間以上も外国人は寒風吹きすさぶ外で、理解できない日本語を聞かされるばかりだったため、≪もんじゅ≫の生徒たちは「外国語で話してあげなきゃ可哀そう。ぼくが大人になったらやりたいな」と言っていました。

 英語について言えば、近年は子ども向けの英語教育が盛んだったり、日本国内でも外国人と接触する機会が増えたりしたことで、≪もんじゅ≫の個別指導で小学生に英語を教えていて、全体的に子どもたちの発音が上手になっていることに気づきます。センスのある子はネイティブ並みの発音をします。昭和の頃のような、あからさまなカタカナ発音をする子は、ほとんどいません。初めは英語の音を聞き取れない子でも、「r」「f」「v」の発音を強調して教えると、面白がって真似をしてすぐに修得します。

 ≪もんじゅ≫の授業で小学生に将来なりたい職業を聞くと、「ユーチューバ―」との答えが多く返ってきます。わが家の小学生の娘も日常の趣味を映像に収めてYouTubeにアップし、閲覧数や登録してくれたファンの数を見て喜んでいます。「そんなものは安定した仕事にならない」と否定することは簡単です。でも、最近は「インスタ映え」などの流行語にも表れている通り、画像・映像は社会を動かす力を持っています。プログラミング教育で正しい使い方やビジネスへの応用を教えるべきでしょう。

 小中学校で現在勉強していることが、将来どのような職業で役に立つのか、どのように社会貢献につながるのかを生徒たちに示せたら、子どもたちがもっと意欲的に各教科の学習に取り組むようになるはずです。すでに大人が子どもに「教える」のではなく、大人が苦手なことを簡単にできてしまう子どもたちと、新しいビジネスチャンスや社会貢献を「ともに考える」時代に入っているのではないでしょうか。教室外で社会との接点を持つ機会を増やすことで様々な発見を促し、総合的な教育効果を高めるのだと思います。

(高橋門樹)