私は2か月ほど前にTokyo2020の Field Cast(大会ボランティア)として、パラリンピック 競技のパワーリフティングのテストイベントに参加しました。以下にボランティア目線で見たパラ・パワーリフティングをご紹介します。
私はTokyo2020の大会ボランティアに昨年12月に応募、今年2月に面接、そして7月にパワーリフティングのテストイベントにスタッフ参加するオファーをいただきました。私の担当場所は “FOP”(Field of Play=競技場)と書かれており、選手たちを間近で見られることに心が弾みました。
パワーリフティングのテストイベント会場は、有楽町にある東京国際フォーラムです。私がお手伝いした9月
25日は選手たちの練習日で、26・27日の2日間は競技本番でした。ガラス張りの地下トレーニング場は外から見える位置にあり、通勤する人たちが歩きながらのぞきこんでいました。
東京国際フォーラムHall-Bの入口から入館し、受付でField_Cast(大会ボランティア)として入場手続きを済ませると、ユニフォームと首からかける大きな名札(アクセスカード)を渡されました。7階にあるField Castの控室でそれらを身に着け、いよいよテストイベント参加です。
ボランティア初日の9月25日は、イクイップメントチームの所属です。到着した各国の選手団を練習場に誘導し、ベンチ台やバーベルのバー、ディスク(円盤状の重り)を整備します。チームのField_Castメンバーには日本語のできるアメリカ人がいて、外国選手たちの案内を買って出てくれました。
練習場では欧州の顔立ちの整った男子選手が、厚い上半身の筋肉を躍動させながら、何枚もディスクを両側に重ねたバーベルを上下させていました。おもむろに彼がベンチから立ち上がると、両足は黒光りしたメカニックの
義足で、颯爽と歩いていきました。まるで映画のワンシーンのようでした。
40代に見える外国人選手は、練習の合間に日本社会や教育システムなどについて、現在香川県の中学校で英語を教えている米国人Field Castに質問をしていました。その選手は大学のロゴの入ったTシャツを着ていたので、大学の研究者かもしれません。2人はJapanology論議に話を咲かせていました。
海外のパラリンピアンの中には、福祉介護用品の開発・販売で成功している人や、障がいを持つ人との共生社会の広報活動で尽力する有名人が多いと、イクイップメントチームのリーダーが教えてくれました。力強い彼らの生き方の一端を知り、「障がい者」という呼び方に違和感を感じました。
2・3日目は競技場での業務です。競技場エリアへの入場者のチェックや階級別体重測定での選手誘導、ビデオ判定用の動画撮影、競技前と後の器具の整備など各種があります。年齢、職業など様々なField Castが協力、分担してこなしました。選手のケガに備えて医療チームが常に待機しています。
競技前に選手団は国別に割り当てられた場所でウォームアップをします。ウォームアップエリアには競技の進行状況と次の試技までの時間を示す大型モニターが設置されています。ライバルが何kgの試技を成功させたのか、自分の出番は何分後か、張りつめた空気の中で皆がモニターを注視していました。
競技場内のウォームアップエリアで練習する選手たちは、四角く固められている滑り止めの粉(炭酸マグネシウム)を手のひらにま
ぶしてバーベルを握ります。粉受けのトレイに印刷されている “RAISE THE BAR”(バーベルを押し上げろ)を目にして、競技直前に自らを奮い立たせるかもしれません。
表彰式では式典サポート担当の女性たちがエスコートとなり、メダリストの誘導を行います。競技後まもなくメダリストたちは競技場奥の一角に呼ばれて、表彰式の要領の説明を受けます。エスコートカードが入場する順番に置かれ、それに従ってメダリストやエスコートが並んで表彰を待っていました。
私は表彰式でメダルを授与された直後の選手たちをMixed Zone(記者会見場)に案内する役も担当させてもらいました。メダリストたちを舞台そでの通路から競技場外に誘導してMZに入ると、各国記者たちが待ち構えて
います。メダリストだけに与えられる栄誉の場が垣間見え、こちらも嬉しくなります。
テストイベントの私のチームはLINEグループを作りました。投稿したコメントが自動的に日本語→英語または
英語→日本語に翻訳されるアプリを使い、競技時間中の指示や情報交換も、常に日英両言語で受け取ることができます。「水虫の衣服」など可笑しな訳文に時々なっているのはご愛敬です(笑)。
Field Castの皆さんは英語を使える人が多くいました。大会運営のスタッフは英語で外国人スタッフとやり取りをし、ボランティアのCastたちも外国人チームリーダーから英語の指示を口頭で受けて業務にあたることがあります。単語やフレーズをすぐに返せる、即応力のある英語が求められます。
Tokyo2020のField Castとして今回のテストイベントに参加して得られたものの1つに、自分の世界が広がったことが挙げられます。各国のトップアスリートや当該競技の国際組織の人と接し、年齢や職業、出身地、国籍など様々なボランティアと語ることは、非常に楽しく発見の連続でした。
パワーリフティングのテストイベントを通じて、私はパラリンピック・ムーブメント――障がいのある人々と
共生する社会の創出に賛同し、微力ながらお手伝いをしたいと思いました。なお、当スレッドで添付した写真は私が撮影したものであり、大会組織委員会にSNS使用の了承をいただいております。