つい先日、こども教室≪もんじゅ≫の生徒さんが、「インドそろばん」(Indian Abacus)を持参して見せてくれました。お父様がインドへの出張で、インド人の知人からもらったそうです。珍しいので写真に撮らせてもらい、SNSにアップする許可をお母様からいただきました。添付した写真がそれです。

 このそろばんは、珠を弾くタイプのものではなく、珠の代わりに盤の中に組み込まれたボタンを上下に移動させて計算します。ボタンを上へ移動させるとボタンの下部が黒色となり、数字が入ったことを示します。下げると盤と同じクリーム色となり、数字が入っていない状態になります。

 商品が入っている箱の側面には、「NO DROPPING=珠(ボタン)がズレない」とことを利点として書いています。しかし、ボタンは動かすのにやや固く、親指と人差し指で挟んで上下させるために、日本のそろばんのように瞬時に多くの球を動かす操作には不向きかもしれません。

 日本では数年前に「かけ算九九を20×20まで覚えてしまうインド式算数」がもてはやされた時期がありました。数学で0(ゼロ)を発見したインド人は数学に強く、そろばんはインドで見向きもされていないのではないかと私は思い込んでいたので、インドでのそろばん教育の状況をネットで調べてみました。

 すると、インドでもそろばんのフランチャイズ教室がいくつもあったり、「なぜ今の時代にそろばんが必要なのか」といった質問とそれに対する回答がネット掲示板に何件も寄せられていたりしました。日本ほどの規模ではありませんが、いくつかの珠算団体による地方大会や全国大会もあるようです。

 あるインドの教育プログラム「ARISE―そろばんと能力開発」のサイトには、そろばんの効能として、①イメージ力と視覚化、②集中力、③聴力と読み取り力、④記憶力、⑤計算の正確さと速さ、⑥脳全体の活性化の6つの能力を向上させると書いてあります。これはほぼ万国共通ですね。http://ariseabacus.com/abacus.html

 同サイトには、インド最古の聖典『ヴェーダ』の中に「ヴェーダ数学」があり、様々な計算技法が編み出されたことや、それが現代のヒンドゥー学者たちによって紹介されていることなどが紹介されています。日本で関孝和の業績や『塵劫記』によって和算の高水準を謳うのと似ています。

 インドのほとんどのそろばん教室は、日本と同じ珠を弾くタイプのものが使われています。写真で紹介したそろばんは、「数字が入った状態(value position)とそうでない状態(zero position)では、色が変化する」ことや先の「珠がズレない」などと併せて「21世紀の発明」と宣伝する新商品です。

 世界の情報技術(IT)分野において人材の育成と供給で大きな貢献をしているインドですが、そのインド教育界の一部で上記の通りそろばんの見直しがされているようです。国を問わず、幼少期における数の構造の理解と小学校での数理処理に有効な教具である点で認識に差がないことがわかりました。

 ネット記事によれば、マイクロソフトやアマゾンの本社がある米シアトルにはインド人ITエンジニアが多く、現地で開講している日本のそろばん教室に彼らの子どもたちが通っています。「2011年の開校当時の『日本人の生徒約50人』という期待の2倍以上の生徒が通うようになり、しかもその半数以上をインド人が占めている」とのことです。http://news.livedoor.com/article/detail/12809794/

 ITの高度化が進み、人工知能(AI)の更なる発達が期待される中、日本でもそろばん学習をどのように広め、それをアドヴァンテージとして社会で認識されるようにするのか。大学入試改革をはじめとする日本の2020年の教育改革で、新たなアプローチを打ち出せるのか。そろばん業界と指導者の対応が問われている気がします。