全国珠算教育連盟の『全珠連会報』第164号(平成6月30日発行)に興味深い記事「珠算と私」が載っていました。連盟の副理事長を務めていらっしゃる樋口清司氏の記事です。樋口氏はマサチューセッツ工科大学大学院航空宇宙学科修了され、昭和44年から宇宙開発事業団、現JAXAに勤務されています。

樋口氏は小学校4年生からそろばんを始められました。そろばん塾では小学校6年生になると競技会参加候補者のグループに入ったものの、もっと早い時期から習い始めていた人たちにはかなわずに補欠ばかりで、いつも劣等感を抱いて練習していたそうです。しかし競技会前の合同練習などにも参加し、そこでつくった友人は「私にとって大変な財産」になったと述懐されています。

そろばんが目に見える形で役立ったのは仕事に入ってからです。「宇宙の世界に入って、珠算は思わぬ形で私の人生を助けてくれました」。パソコンのない当時、開法(平方根、立方根の計算)ができるそろばんの能力を持つ樋口氏は、新人時代から上司に目をかけられました。とくに国際宇宙ステーション計画に関わり、欧米人と仕事を一緒にするようになると、彼らは暗算を一種のマジックと思ったそうです。会議中に暗算で数値を出した発言をしたり、余興で複数ケタの足し算や掛け算の暗算を見せたりすると、IQがすばらしく高い人と評価され、一目置かれるようになりました。「英語が苦手だった私」でも卓越した暗算力があればこそ、欧米人たちに混じって立派に仕事をこなすことができ、「その時の仲間たちが、今、私の国際的な活動」を助けてくれていると言います。

樋口氏はご自身のそろばんの実力は一流ではなかったと謙遜されます。でも「一流の選手と一緒に練習したり生活したりする場にいることができました。そして素晴らしい先生と友人に恵まれていました」と述べ、最後は「小学校4年生から4~5年間必死に練習したあの時間が、こんなに私の人生に影響を与えるとは(中略)。そろばん万歳!」と締めくくっていらっしゃいます。

≪もんじゅ≫のティーチングスタッフも、子どもの時に身につけたそろばんの暗算力・計算力から、後に学業や仕事で恩恵を受けたことは同じです。そうしたそろばんの効果を近隣で広げていけたら嬉しいです。

門樹