≪もんじゅ≫の作文・読書コースでは、毎週1枚のペースでワークシートを提出してもらいます。ワークシートには課題図書15ページ前後に関する設問がいくつかあり、生徒はそれに解答します。解答は60~110字までの字数指定があります。入会当初の生徒さんは、この字数指定に戸惑います。初めてのワークシートは、みな字数足らずのままで解答を提出してきます。
 作文指導では、文章を簡潔に書くよう指示することがあります。しかし、これは「論旨に関係のないことは書かない」という意味であって、決して「文章は短いほうがよい」と言っているわけではありません。というのは、短い文章は情報が少なく言葉足らずになりがちだからです。以下に事例をあげます。
 古代エジプト王ツタンカーメンの墓発見についての課題ドキュメンタリーを読んで、「『いつ・どこで・だれが・なにを・どうした』の情報を入れ、110字前後で説明しなさい」とのワークシートの設問に、「1922年エジプトでカーターがツタンカーメンの墓を見つけました」と答えた生徒がいました。わずか30文字です。間違ったことは書いていませんが、試験なら減点されます。
 課題テキスト本文中には、ツタンカーメンの王墓発見に関して、カーターやツタンカーメンの人物説明、発掘の経緯、出土品とその価値などが書かれ、この出来事を「千年に一度の大発見」と評価しています。それら主要な情報や歴史的意義を文章から取り出して説明すれば、解答には高い評点が与えられます。一般に、指定された字数の8割は埋めなくてはいけないと言われます。
 字数制限を超えて冗長な文章を書くことは論外ですが、かといって短すぎる解答は、解答者の読解力と文章執筆能力の不足を採点者に疑わせかねません。むしろ採点者が具体的なイメージを描けるように、出題者が与えた字数の枠いっぱいを使って、言葉を尽くさなければいけません。出題者は解答者に書いてもらいたいと思う分量の字数を設定しているからです。
 それはスピーチも同様です。かつて英語の苦手な日本人が英語スピーチの場に立たされた時に、何も話せずに困惑し、ついに長い沈黙後に大声で“Thank you!”とだけ語って降壇したら、拍手喝采が起きたという成功譚(?)がありました。しかし、これは日本人のほとんどが英語に慣れていなかった時代の話です。今の時代、語るべきことを語れなかったら、失笑を買うだけです。
 「スピーチは短いほうが良い」と時々言われますが、本来、スピーチは話の短さよりも、話材の上手な選択と豊富さ、口頭表現のなめらかさ、そして時間を守ることこそが賞賛されるべきものです。結婚披露宴でのスピーチなら、新郎または新婦の素顔、人柄の良さや有能さのエピソードを紹介するほか、話者が年長者なら結婚生活に関するアドバイスを1つ語り、祝福の言葉でしめくくるでしょう。
 スピーチでも文章でも、聴衆・読者に有益な情報や考察を、流れの良い論理展開でユーモアを交えつつ、状況に応じて量を調節して話したり書いたりできるのが、高度なコミュニケーション能力をもった大人と言えます。作文はそのための基礎練習です。学校の宿題や受検の試験科目だから、その時だけ仕方なくこなすのではもったいないです。
 ≪もんじゅ≫の作文・読書コースは、こうした知的能力を習得するための基礎訓練を、毎週1枚のワークシートで積み重ねています。最初は十分な量の文章を書くことができなかった生徒さんが、回を重ねるごとにワークシートのマス目いっぱいに書いて提出してくるようになるのを見ると、指導しているこちらも嬉しくなります。