わが家の教室≪もんじゅ≫では、音読と暗唱を大切にします。それが日本語のリズムを覚えたり、文学作品への親近感を抱かせたりするのに役立つからです。幼稚園児から小学校高学年の生徒まで、古典作品の音読をする際には、絵本を使うと子どもたちの関心を引き付けやすくなります。

 例えば、上の写真は清少納言『枕草子』の見開き2ページ目です。「やうやう白くなりゆく山ぎわ、少しあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる」の情景が、清少納言と思われる可愛らしい女の子の頭の中に広がっている絵です。子どもには理解しにくい古文が、色鮮やかな絵で想像力をかきたてるだけでなく、マンガ的なイラストで描かれた清少納言を見たくて、生徒たちは絵本を広げ、ページをめくりたがります。

 流麗な「ゆく河の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず」の文章で始まる鴨長明『方丈記』の音読は、下の写真の絵本のページを開いたところ、意外なことになぜか子どもたちが笑い出しました。作者の鴨長明をモデルにしたと思われるお坊さんのツルリとした頭と犬の後頭部が可愛らしく並んでいるのがユーモラスだったようで、笑いのツボにはまった小学4年生の男の子たちは、その文章の音読ができなくなってしましました。

 生徒さんたちが笑うばかりで『方丈記』の音読授業はうまくできなかったな……と思っていたら、いちばん笑い転げていた男子生徒が授業後に近づいて来て、「先生、その絵本貸して。もっと読みたい」と言うので貸してあげました。気に入ったようです。持ち帰った後、その子は家でこの本を何度も読み返して、翌週の授業ではみんなの前で冒頭を完全に暗誦してくれました。それを見た他の男の子たちも「じゃあ、今週はぼくが借りる」となり、暗誦の連鎖ができました。

 日本の三大随筆(もう1作品は吉田兼好『徒然草』)と呼ばれるこれらの作品も、こんなふうに読めば子どもでもイメージがつかみやすいし、興味を持ちやすくなります。友だちがいると暗誦の過程で競争も生まれます。他にも小倉百人一首を幼稚園時に音読して読み慣れておくと、小学校の時に音読をせずに一旦忘れても、中学になって国語の授業で出てきた時に苦もなく暗記ができてしまい、「どうして? 私って百人一首の天才?!」と、自分に驚いてしまう現象が起きます。

 ご参考までに、写真で紹介した本は、ほるぷ出版の「声にだすことばえほん」のシリーズです。他に、松尾芭蕉『おくのほそ道』、『祇園精舎(平家物語)』、落語『寿限無』、夏目漱石『吾輩は猫である』などがあります。幼稚園児は何度も音読しているうちに、これらをすぐに覚えてしまいます。絵本には早くから活字と古典的な言葉に慣れ親しむことにも、大きな効果があります。

(高橋門樹)