NHKスペシャル「スペース・スペクタクル・プロローグ『はやぶさ2の挑戦』」 から

 先月2月22日に探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」に到着しました。はやぶさ2から送られたデータにより、現地での様子が映像化されています。それによると、リュウグウの形はそろばん玉のような形であることがわかりました。

 リュウグウは地球と火星の間で太陽の周囲を公転する惑星の1つで、直径は900m弱です。小さな天体である分、自転周期はわずか7時間38分と短いのですが、公転軌道が地球の少し外側であることから、リュウグウの公転周期は1.3年と地球よりも少し長めです。

 写真は3月17日に放送されたNHKスペシャル「スペース・スペクタクル・プロローグ『はやぶさ2の挑戦』」の1シーンです。タレントの櫻井翔さんとNHKアナウンサーの和久井麻由子さんのナビゲートで、彼女が「リュウグウはそろばん玉のような奇妙な形だったのです」と明かしました。

 そろばん玉の形は「奇妙」? 「美しい幾何学的な形」と形容しても良いのではないかと、そろばん業界の人間としては、つい引っかかってしまいますが、そろばんを取り上げてくれただけでも、ありがたいと思うべきでしょう。画面にそろばん画像が登場した瞬間、そろばん玉を払う「ジャー」という効果音が入ったのが可笑しかったです。

 はやぶさ2を打ち上げた宇宙航空研究開発機構 JAXA(ジャクサ)の英文ホームページでは、このことについて “the asteroid also has a shape like fluorite (or maybe an abacus bead?).” と紹介されています。簡単に訳せば、その小惑星(asteroid)は八面体ホタル石(fluorite)あるいはそろばん玉(abacus bead)のような形をしている、との意味です。外国人向けにはホタル石、日本人にはそろばん玉で例えているのが、訳の妙です。

 はやぶさ2がリュウグウに到着する以前、リュウグウは地球や月のような球体であろうと推測されていました。そろばん玉のような形だったとは、 JAXAの専門家たちにとっても予想外だったようです。そうなった理由は、まだこれからの分析を待たねばなりません。
 
 さらに、リュウグウは表面の色が深い黒色であることもわかりました。色が黒いことは有機物が豊富に含まれている可能性が高く、地球で生命が生まれた起源の手掛かりがつかめるかもしれません。黒いそろばん玉と言えば、高級そろばんの黒檀玉のようですね。

 リュウグウには、太陽系が誕生した46億年前の水や有機物が残されていると考えられています。地球の水はどこから来たのか、生命を構成する有機物はどこでできたのか。そのような疑問を解くのが、はやぶさ2のミッションです。

 2014年12月に打ち上げられたはやぶさ2の帰還は、2020年末です。オリンピック・バラリンピックが東京で開催、閉会した後です。「黒いそろばん玉」リュウグウが、生命誕生の謎を解き明かしてくれるかもしれないなど、2020年は話題の多い年になりそうです。

 はやぶさ2を打ち上げ、宇宙探査と研究をしているのは、宇宙航空研究開発機構 JAXA(ジャクサ)です。JAXAは筑波宇宙センターや種子島宇宙センターの他にも日本各地に施設を持っていますが、≪もんじゅ≫から車で20~30分程度の場所に相模原キャンパスを持っています。

 JAXA相模原キャンパスでは毎年夏休みに子ども・家族向けに「相模原キャンパス特別公開」を開催しています。宇宙科学をわかりやすく理解できる様々な模型展示や実験・体験施設があり、大人が行っても楽しめるようになっています。今年は課外授業「もんじゅ遠足」で、小学生たちとはやぶさ2のリュウグウ報告を聞きに行こうと思います。

 どなたかが「リュウグウそろばん」と銘打って、少しざらついた黒い玉のそろばんを作られたら、JAXAなどで売れるかもしれません(笑)