今回は、この春の入試で軽井沢にある全寮制インターナショナルスクールISAK(アイザック)に入学が決まった中学3年生の生徒さんの高校入試の準備について紹介します。これは入試成功の一事例にとどまらず、今後の中学・高校入試を考えるにあたって参考になる入試方式だと考えられます。なぜなら、入試がただの知識の暗記量と設問の高速処理能力の点数化に終始するのではなく、学生時代に積み上げてきた活動実績や独自に確立した学習方法、修得したデジタル技術と情報発信、そして将来の行動計画などを全人的にアピールすることを通じて、自らの価値を高校に認めてもらうという先進国型の入試スタイルだからです。

この生徒さんは中学校で生徒会に所属し、2年生の秋には生徒会長に選ばれました。当時、彼には新生徒会の行動計画書の作成を勧めました。行動計画は、①校則改定、②パラリンピックムーヴメント学習、③国際ボランティア「ありがとうプロジェクト」、④中学校周辺生態系調査の4つから成っています。これらをA4判2枚にまとめて校長先生に提出したところ、この内容について職員室ではどよめきが起こったそうです。こうした計画を生徒会自ら立案したとはなかったと言います。

行動計画の①は都議会議員の方にアドバイスを受けて学校側と協議し、②は当教室スタッフの引率で都庁へ「パラリンピックの開催意義」などについて校長先生と生徒会メンバーでインタビューに行きました。彼が編集したインタビュー動画は後日、昼休みに全校で放送されました。③は鶴川在住の元国会議員の方から直接提案されたイベントです。④は2019年夏に≪もんじゅ≫が講演を依頼して環境省で聞いた、絶滅危惧種の保全と生物多様性に関連して企画した調査です。これらのうち、コロナのために④が実施できなかった以外は、みな彼の任期中に実現しました。

元々、彼は都立高校の推薦入試を受験予定だったのですが、偶然、秋にNHKの番組で『サピエンス全史』の著者であるハラリ博士と高校生たちが英語で対話をしていた番組を見ました。その高校生たちがISAKという学校の生徒であることを知り、彼は同校に興味を持ちました。調べてみると、ISAKは世界を変革するリーダーたちを育成するために、アジアを中心に若き俊英たちを集めたインターナショナルスクールであることがわかりました。設立者の小林りん氏は、東京大学卒業後にスタンフォード大学大学院で教育学を修め、ユニセフで途上国の教育事業に携わった女性で、社会の「チェンジメーカー」を育てようと、同校を2014年に長野県軽井沢に設立しました。

早速、ISAKの願書を取り寄せたところ、その願書に書かなければいけない小論文の量に圧倒されました。志望動機の他に「あなたが弊校に貢献できることは何か」「他人からは歓迎されないかもしれない、あなたの信念は何か」「成功者とはどのような人物か」「SNSをどのように活用しているか」等々、通常の高校入試では問われることのない質問のオンパレードで、いずれにも日本語換算数百字程度の英文で小論文を書かなければいけませんでした。

彼は、2年生の夏にホームステイした米ニューヨークで知り合った航空会社会長の話、空手道の陰陽哲学、市民集会で会った町田市の石阪市長との会話、生徒会長として開設したツイッターアカウントのことなど、日本語に訳せば合わせて5千字ほどになる英文を必死になって作成しました。一次審査ではこれらの文書に加え、2分間の英語による自己紹介動画を撮影して送付することになっていました。ホームタウンや家族、友人のことを紹介する英語原稿を暗記して、お父さんの協力を得て撮影しました。

幸い一次審査を通過し、二次審査はズームを使ったオンライン面接でした。面接は教員である外国人たちから受験生が質問を受けるだけではなく、ご両親も別途面接を受けました。さらには在校生の先輩たち数人とオンラインでするアクティビティをして、全寮制で生活と学業をともにする仲間となるのにふさわしいかどうかを審査されました。ご両親は日本語面接でしたが、基本的に受験生は英語です。ご両親の面接練習も≪もんじゅ≫で行いました。彼は面接で聞かれることが予想される質問とそれに対する回答を30以上想定して、何を聞かれても英語で答えられるように準備しました。用意した想定問答は、中学校の英語の先生やネイティブの英語指導助手にもチェックと模擬面接をお願いしました。

今どきは就職活動でも多用されるオンライン面接にも、テクニックがあります。上から目線にならないようカメラ内蔵のPCを少し高い位置に置いたり、適宜手に取って説明できるよう愛読書の『サピエンス全史』を近くに並べたりしました。背景には空手の全国大会で獲得したトロフィーを飾ったほか、都庁オリパラ準備局でもらったパラリンピックのポスターを貼るなど、受験生の趣味や活動内容が一目でわかるようにしました。二次面接に残った日本人受験生はほとんどが海外在住で英語を流暢に話していましたが、重要なのは「本人のやる気と社会変革力」と考え、最後まで自分がこれまでしてきたことを余すことなくアピールすることに努めました。その結果、見事にほぼ50倍の倍率を乗り越えて、晴れてISAKに合格したのです。

近年、大学入試の方式が多様化しつつあります。筆記学力試験による一般入試ではなく、AO入試を含む各種推薦入試による入学者が、私立ではすでに入学者の半数を超え、文科省は国立でも40%近くまで引き上げる予定と言われています。グローバル化が進展する現代社会では、暗記学習だけでは対応できないためです。それに伴い、高校でも様々な入試が導入されています。高い学業成績が要求されるのはもちろんのこと、高校入試でも個人実績や学習・活動計画が問われる時代になってきました。推薦入試を受ける予定の受験生は自分の強みを持ち、「〇〇といえば××さん」と言われる自分のブランディングを早くから作り上げることが望まれます。