そろばんの効用は、数の理解と計算能力の向上だけではありません。数十分間集中して脳をフル回転させる訓練が、人間の脳を情報処理能力のきわめて高いコンピューターにしてくれます。そろばん熟達者が「一を聞いて十を知る」ような回転の早い脳力を発揮することがあるのは、もともと計算機であったコンピューターが演算処理能力を高めることによって、計算機能にとどまらず、文章作成、ビジュアル加工、作曲までこなす「万能知能」ともいえる機能を持つに至ったのと同じです。普段から頭を高速回転させる癖がついていると、それは計算だけでなく、あらゆる知的作業が効率よくできるようになります。しかも、そろばん開始年齢が若いほど、その能力は早くから身につきます。

当教室の体験教室に来るお子さんは、教師用の大きなそろばんに触らせると、オモチャで遊ぶかのように夢中になってタマを動かします。教師が「いち、にい、さん、しい」と言いながらタマでその数を示すと、子どももマネをして楽しそうに何度も繰り返しています。そうした傾向は幼稚園児ほど顕著です。幼稚園児に漢字の「一、二、三、四…」を書かせようとしても、指がうまく動かずに、ぎこちない字しか書けないことがほとんどですが、そろばんはタマを指で移動させるだけなので、すぐにできるようになります。子どもが手のひらサイズのゲーム器に夢中になるのと同様、指先ですばやく操作することがそろばんの魅力となっているのでしょう。冒頭でそろばんの本質を、「数理処理システムを最も容易に幼少期の脳にインストールすることができる教育ソフト」であると言った所以です。

そろばん教室では、複数ケタのたし算・ひき算やかけ算・わり算をこなす幼稚園児が珍しくありません。小学校の指導要領の算数の進度をはるかに超えて、子どもたちの計算能力が先行していきます。近年、子どもの教育に関してカリスマ的な指導者となっている方々、たとえば「百ます計算」で有名な隂山英男・立命館小学校副校長や、テレビなどにもよく出演している医師でありながら教育評論家でもある和田秀樹氏、女子プロゴルファーの横峯さくらさんの伯父であり、ヨコミネ式教育で注目を集めている横峯吉文氏、さらには音読を推奨する明治大学の齋藤孝教授も、そろばんの育脳力を著書の中で賞賛しています。

隂山氏は「そろばんによる脳の活性化は、百ます計算などの反復練習と同程度か、それ以上の効果を小学校の低学年ではもつ」と結論付けています(『学力の新しいルール』文藝春秋)。東京大学医学部に現役合格し、受験生時代に全国模試で1番をとったこともある和田氏は、得意科目が算数だったそうです。その理由を「計算がずば抜けて速かったから」「もちろん、そろばんのおかげです」と言い、そろばんを「やらないなんて、もったいない」とまで書いています(『「脳力」がぐんぐん伸びる!そろばん入門』瀬谷出版)。横峯氏は保育園や学童保育での経験から「一番早い子では小学校2年生でそろばん1級に合格します。遅い子でも6年生の段階ではそろばん1級レベルに達しています。そろばん1級の問題は、私から見ると、考えられないレベルの難しい問題です」と実践状況を紹介しています(『ヨコミネ式子供が天才になる4つのスイッチ』日本文芸社)。

時代は変わっても、そろばんが脳力育成の最強の武器であることに変わりはありません。小さなお子さんをお持ちのご父母の皆さまには、お子さんが勉強に自信をもてるようにするために、そろばんを始めることをお奨めします。

                                                           門樹