第33講 ―― 五月雨、五月晴れは、何月の天気?

 皆さんは、五月雨、五月晴れ、五月女などの言葉を見たことがあると思います。まず、読み方が難しいですよね。さみだれ、さつきばれ、さおとめ、と読みます。そこで、質問です。これらは共通して現在の何月の気象や行事をさしているでしょうか。正解は6月です。では、なぜ「五月~」なのに、6月なのでしょうか。

 実は、日本が明治時代に入って西洋との交流が増えると、暦の違いが問題となってきました。それまで日本では陰暦(旧暦)を用いていましたが、明治5年末に西洋が使っている陽暦(新暦)を導入しました。具体的には明治5年12月3日を明治6年1月1日として、新暦となりました。このため、約1ヵ月の時差ができてしまいました。

 その結果として、江戸時代に確立した俳句の季語に、現代の月と1ヵ月ほどのズレが生じることとなりました。文字上は5月に関連しそうな季語の五月雨、五月晴れ、五月女などは、今の6月の現象や行事を指しています。次に、そもそもそれらがどのような意味なのかを簡単に確認してみましょう。

 俳聖、松尾芭蕉の有名な句「五月雨を集めてはやし最上川」は、6月の梅雨で川の水かさが増して激流になっている様をうたっています。また、「五月晴れ」は元来、梅雨の中休みの貴重な晴れ間を言います。「五月女」は6月初旬、二十四節気の芒種に田植えをする女性たちのことです。

 ところで、なぜ「五月」の読み方の最初の音が「さ」なのでしょうか。本居宣長の『古事記伝』によれば、田植えをする作業を「佐(さ)」と言い、その月を「佐月」と呼ぶそうです(本居宣長記念館のホームページ)。つまり、もともと田植えをする季節だった「さつき」という読み方を「五月」に当てたようです。
 
 ≪もんじゅ≫の音読・書きとりコースでは、生徒に俳句の要件の1つとして季語を教えますが、こんな難読漢字の読み方や意味を、クイズのように問いかけたり、説明したりします。ただの暗記事項として覚えるよりも、子どもたちには新鮮に感じて印象に残るようです。

(高橋門樹)