8月23日(火)に開講予定の≪もんじゅ≫の夏期講習は、午前の部でヘレン・ケラーを題材にして作文の練習をします。

ヘレンの自伝には、言葉を理解できるようになった後の、学校での勉強等に関する記述も多いです。

ヘレンの自伝には、言葉を理解できるようになった後の、学校での勉強等に関する記述も多いです。

 ヘレン・ケラーは、皆さんよくご存知だと思います。「三重苦を克服した奇跡の人」と言われている人です。彼女は、現ハーバード大学を卒業し、数ヵ国語を理解し、何冊も著作を残しました。多くの国々を訪問して世界中から勲章を贈られました。日本へは3度訪問し、日本政府は瑞宝章を授与しています。また彼女の訪問を機に、日本で身体障害者福祉法が制定されました。世界の人々と政府に大きな影響を与えた人です。

 ヘレン・ケラーに関する本や映画はたくさんあります。日本では教科書にも載っていますし、子ども向けの偉人伝などにもなっています。1962年には彼女を描いた映画「奇跡の人」がアメリカで公開され、アカデミー賞の主演女優賞と助演女優賞を受賞しています。ただし、ヘレンについて調べると彼女の経歴が見事すぎて、ヘレンと彼女を教えたアン・サリバン先生の壮絶な努力が隠れてしまうことが、私には懸念されます。

ヘレンの自伝とアンの記録を合わせて読むと、二人が一心同体のようだったことがわかります。

ヘレンの自伝とアンの記録を合わせて読むと、二人が一心同体のようだったことがわかります。

 「奇跡の人」という映画の題名は、実はへレン・ケラーを指しているのではありません。原題は“Miracle Worker”、つまりヘレンを指導したアン・サリバン先生のことなのです。アンは彼女自身が目に障害を持ち、盲学校で教育を受けました。彼女がそこで会得した視覚障碍者用の指文字をヘレンに教え、それまで動物のような行動しかとれなかったヘレンに言葉を理解させようとするのですが、簡単には実現しません。

 アンは暴れるヘレンと文字通り格闘をしながら根気強く指文字で話しかけ、とうとうヘレンは全ての物に名前があると気付きました。井戸の水がヘレンの手の上を流れた時に、天啓にうたれたかのように“Water”を理解したシーンは有名です。ヘレンは「もっと言葉を教えてほしい」とアンに体全体を使って要求します。アンは著書の中で、その日の夜、「彼女は自分から私の腕の中にすべりこんできて、はじめて私にキスをしたのです。私の心は(喜びで)はりさけるようでした」と書いています。

 ヘレンもアンも自分の経験を記録し、著書は邦訳もされています。アンがヘレンに言葉の存在を伝え始め、ヘレンが大学を優秀な成績で卒業するまでの2人の苦労が、常人の想像を絶するものだったことが生々しく書かれています。夏期講習では、その過程を彼女たち自身の言葉でつづられた本で読み、映像で見た時の感動を子どもたちに言葉で表現してもらいます。子どもたちが刺激を受けて知的に興奮している空気を、教室という1つの空間の中で共有できるのが、≪もんじゅ≫の夏期講習の醍醐味でもあります。

 感想文を書く時には、よく「○○を読みました。○○について書いてありました。すばらしいと思いました。私もそうなりたいと思います。」というような構成でまとめてしまいがちです。しかし、そうした上滑りな言葉で原稿を埋めても、本に感動していないことは一目瞭然です。魂の言葉があふれる本を読むことで、また鬼気迫る映画を観ることで、どれほど心を動かされ、自分の思いが自然とわいて出てくるのか、そしてそれを言葉につむぐ作業の楽しさを知ってもらいたいと思っています。