先週末に全国珠算教育連盟(全珠連)の埼玉所沢市の三浦昌浩先生にご紹介をいただき、神奈川県支部の松井幸代先生が主宰されている英語読み上げ算同好会(Y. E. SOCIETY)の研究会に参加させていただきました。その研究会では初めて見聞きしたことや、考えさせられることが多かったので、以下にその内容を少し書かせていただきます。

 神奈川県には、横須賀、厚木、座間、相模原など在日米軍が多くあり、その子女が通うアメリカンスクールが基地内にあります。それらの小学校にY. E. SOCIETYの先生方が行って、そろばんを英語で教えています。そろばんが算数教育に有用であることは在日米国国防省教育局で認められており、日本各地の米軍基地内の小学校でそろばんが教えられているそうです。また先生方は、ご自身のそろばん教室で日本人の小学生相手に英語による読上げ暗算を教えています。

 全珠連神奈川県支部では、毎年3月に日米小学生そろばんコンテスト(American & Japanese Children’s Soroban Contest)を開催しています。コンテストにはY. E. SOCIETYの先生がたが教える県内在住のアメリカ人と日本人の小学生たちが75名ずつ計150名が集まり、英語読み上げ算競技と見取算競技を競います。それぞれの競技の上位者に賞が与えられるほか、アメリカン・チャンピオン賞、ジャパニーズ・チャンピオン賞もあります。

 Y. E. SOCIETYは1992年に発足、今年で27年目になります。発足当初から現在まで研究会に継続して参加されている先生方が何人もいらっしゃいました。今なお毎月こうして集まって英語で数字を読む練習をする熱心さには、頭が下がりました。会を主催する松井先生は、英語読み上げ算の効用の1つとして「英語学習の第一歩になる」ことを挙げます。英語を聞いても、単語や文章をいちいち日本語に置きかえて理解していると会話に即応できません。英単語を聞いた瞬間に反応できる「英語脳」を、そろばんで使う数字から始めることを提唱されます。

 そろばんの読み上げ算で使う用語の一部を日英対照にすると次のようになります。「願いましては」“Starting with,” 「5円なり」“five dollars,” 「引いては1円なり」“subtract 1 dollar,” 「加えて3円なり」“add three dollars.” 「~では?」“That’s all. What did you get?” 「ご明算」“That’s right.”などとなります。「ケタ」は“digit”、「たし算とひき算」は“addition and subtraction”、「かけ算とわり算」は“multiplication and division”です。

 他にも、奇数、偶数、少数、分数、暗算、筆算、以上、以下、未満など、基本的な算数英語の単語リストをいただきました。これらの英単語はこれまでに見たことはあり、読めば理解できても、自分の口からは出てこないものもあります。しかし、本来これらの単語は小学校の算数で使う言葉ですから、ネイティブにとっては難しい言葉でないばかりか、いざ、私たちが英語でそろばんによる計算を教えるのであれば、これらを使えなければ話になりません。日本の小学校英語でも、あいさつや遊びばかりでなく、簡単な計算の言い方を英語で練習してみてもよいかもしれません。

 研究会では、兆(trillion)、10億(billion)、100万(million)、千(thousand)の位が入る13ケタまでの数字を読む練習しました。兆=trillionであることは知っていましたが、10ケタ以上5口の読み上げ算を「願いましては」から「では?」まで、人前で声に出して英語で一気に読んだのは初めてで緊張しました。間違えずに速く滑らかに読むには、相当の修練が必要だと痛感しました。さらに英語の発音が母国語の日本語同様に正確に発音できなければ競技者が聞き取りづらく、読み手としては不適格です。

 英語読み上げ算の練習を、どのようにそろばん教室で教えているのかは、研究会の先生がたそれぞれ教室の事情に合わせて工夫されています。毎週教えている先生もいれば、月1回という方もいます。実際に生徒に英語読み上げ算をやらせてみると、今どきは英語を幼時から勉強している子が少なからずいて、そろばん自体はまだ習いたてでも、英数字の聞き取りができるために、英語のできないそろばん上級者に勝つことができ、互いに良い刺激になるそうです。

 近年、大学でも英語による授業が導入されていますが、一般に文系よりも理系で実施する方が比較的容易であると言われます。理論的な数式や原理、実験の方法・機器・材料などは万国共通なので、やっていることを見て、言っていることを推測しやすいという利点があります。単語や文章のパターンを覚えやすい上に、グループ実験を通じて英語コミュニケーションの練習にもなります。

 小学校英語でも、無理に慣れない会話から始めてパターン練習と生徒の沈黙を繰り返すだけではなく、算数の「8たす5は何だ?」を“What is eight plus five?”と英語で質問すれば、子どもたちが率先して大きな声で“Thirteen! ”と答えるような、元気な授業を作ることも必要かと思います。今回の研究会では、単語と言い回しを暗記するばかりの英語ではなく、自ら発話したくなる英語授業の一例を知ることができました。

(高橋門樹)