左は≪もんじゅ≫に掲示してあるアジア地図、右は『サピエンス全史』上巻です。

 先日、当教室の個別指導コースに入会したばかりの小学6年生の男子に、日本史を教えました。日本人と日本文化の起源について話を始める際に、まず世界地図を見てもらいました。

 「日本人はどのあたりからやってきたと思う?」と聞くと、「日本列島が大陸と島でつながっているのは、沖縄の南西諸島や樺太ですね。そこから海を渡って来たように見えます」と答えました。「いいところを見ているね。日本には南方や北方など色んな地域から人々が集まって国ができたんだ」。「でも、日本文化を考えた時、いちばん重要なのは中国大陸との橋わたしをした場所になる。中国の漢字やインドの仏教が入ってきたのは、どこからだと思う?」と尋ねると、彼はしばらく地図を眺めてから朝鮮半島を指しました。

 「そう、その通り。中国大陸で殷王朝が紀元前1500年以上前にできて、紀元前100年ごろに大陸の東端にある朝鮮半島で最初の国「衛氏朝鮮」ができた。その朝鮮半島から海を渡って漢字や仏教が日本に伝わり、日本では紀元600ごろに聖徳太子が遣隋使を中国へ派遣、改めてそれらを学びに行かせた。つまり、国造りや文化が約2000年かけて朝鮮半島経由で中国から日本まで伝わったんだ」。男の子は地図を見ながら壮大な時間と地理空間に思いをはせているようでした。

 今度は彼の質問の番です。「そもそも人間はどこからやってきたんですか?」 人類の誕生と文明の形成については、1年ほど前に話題になって読んだ歴史書『サピエンス全史』に書いてあったので、その一部をかいつまんで話しました。「今の人類の祖先はアフリカで生まれたと言われているんだ。それが7万年前に中東へ居住地域を広げ、アジア、アラスカを経由して、アメリカ大陸にまで渡った。その数万年のうちに人類は場所に応じて肌の色や髪の毛に違いが出てきたんだ。」

 その後、その男子生徒のお母様は事務連絡のメールの中で、「息子は『今日の授業、すごく面白かった』と息を弾ませて帰ってきました」と書いていらっしゃいました。この息子さんの学校の担任の先生は、何か質問をしても『それは教科書に書いてあるから、ちゃんと読みなさい』と返答して終わりにしてしまうそうで、息子さんは小学生向けに書いてある以上のことを教えてくれる教室を探していたとのことでした。

 学校の先生が30人以上の生徒一人一人に細かく対応するのは難しいのかもしれません。知り合いの小学校の先生に理由を聞くと、「特定の子に丁寧な指導をすると、他の子の親から『あの子ばかりに手をかけている』と文句が来るから難しいんですよ」とおっしゃいます。平等が原則の公立校では、あくまでも中間レベルの生徒にあわせなくてはいけないのが現実なのでしょう。そうしたところに、個別の要望に応えられる私塾の存在意義があるのでしょう。

 余談ですが、今年の春に、多摩大学名誉学長で著名な経済学者の中谷巌氏の講演を聞く機会がありました。演題は「トランプ政権の世界経済と日本」だったのですが、内容は前述の『サピエンス全史』への言及が非常に多かったのが印象的でした。同書からの知見として氏が強調していたのは、いくつか存在した人類種の中でホモ・サピエンスが生き残った理由が、各民族・時代の「神話」を創造する能力にあることでした。トランプ米大統領が誕生した背景には、貧困層をも生み出してしまう「グローバリゼーション神話」への否定があったと指摘し、それに代わる新しい世界神話の創造が各国リーダーに、いま求められていると提言されていました。

 ちょうど今、トランプ大統領が来日しています。安倍首相と非常にウマが合うようです。ぜひとも両首脳が手を携えて、世界の平和と繁栄につながる新しい世界神話を創造してくれることを願うばかりです。(これ以上の政治論議は別の機会に譲ります。)

(高橋門樹)