≪もんじゅ≫の作文・読書コースでは、毎週ことなるテキストを1冊ずつ、それぞれ15ページほど読み、作文ワークシートの設問に答えていきます。そのうちの1つに、「あなたが作者なら、この作品のどこをどのようにかえますか」という設問があります。文学作品を不磨の大典としてありがたがるだけではなく、それを題材に議論をしてみる試みです。今週提出された、テキスト『齋藤孝のイッキによめる!名作選 小学5年生』の中に収録されている「選集抄/人の作り方を教えた鬼/小沢章友」を読んだ、ある小学校5年生の男子生徒の回答の一部を以下にご紹介します。

 『選集抄(せんじゅうしょう)』とは、漂泊の歌人、西行(さいぎょう)に関する説話が収録されている鎌倉初期に書かれた本です。「人の作り方を教えた鬼」は、その中から一部を小説家の小沢章友さんが読みやすく書き直した作品です。
 内容は次のようなものです。ある時、鬼が西行に、死んだ人の骨から人を作る秘法を教えました。西行が鬼から聞いたとおりに行ったところ、人らしきものができ上がりましたが完全ではありません。土御門(つちみかど)博士に相談したところ、西行の施術が不完全であったためであることがわかりました。博士はこの術を二度としてはいけないと厳命します。西行は自分が作った人のようなもののところへ行き、「ゆるしてくれ。鬼にだまされ、天地のさだめにそむくおまえを作ってしまった」と泣いて謝りました。

 編者の齋藤孝先生は作品解説で、「最近の遺伝子操作を思い出してしまうね。今、人間はまるで神様のように、遺伝子を組みかえて新しい生物や種をつくることができるけど、それによってどんなことがおきるかは、まだよくわかってないんだよね。この話では、お防さんの西行が人間の分を超えて、いわば人造人間をつくってしまう、神の領域の仕事をやってしまったおそろしさが書かれている」と説明しています。

 ≪もんじゅ≫の作文ワークシートの設問「あなたが作者なら、この作品のどこをどのようにかえますか」に、男子生徒はこのように答えました。
 「西行が作った人に話をさせればいいと思います。楽しい人かもしれない。また、西行は何人もの人を作って、骨になった人を救ったらいい。作るのに失敗してしまった人も、最初から作ればいいと思います。」

 言葉は簡素ですが、作られる側に立ったおもしろい発想です。すでにできあがってしまったのならば、いたずらに泣いて悔やむよりも、その人と対話することを提起しています。相手は生前の話をするかもしれません。思い残したことをやりたいと言うかもしれません。蘇生の成功をめざして再挑戦することも説いています。感想文として「西行のしたことはまちがっています」、「作られた人はかわいそうです」と書けば無難ですが、議論はそこで終わってしまいます。添削コメントでは、知識や常識にとらわれない子どもの考え方を上手くほめ、良い論点として議論の発展へと導いていけるように心がけています。

 この生徒の意見のように「人を作る」などと、軽率に語るべきではないと批判することもできます。しかし、多くの遺伝子組み換え食品が出荷され、再生医療が進歩しつつある昨今、現実に起こりうることにタブーとして触れないよりも、技術の改善と社会貢献の観点からオープンな議論も必要でしょう。また、近年、世界じゅうで宗教や人種などが原因となる事件が起きています。排撃的だったり悲観的な見方をするのではなく、異質な存在との対話や、背景にある彼らの社会的境遇の改善などの議論も進めなければいけません。子どもが成長して現実の問題とぶつかった時に、さまざまな角度から解決法を見出せる大人になってほしいものです。

 

  門樹