左上:歩くライチョウ  左下:体をふくらすライチョウ  右:展示場の立て看板

 3月23日(土)にニホンライチョウが15年ぶりに上野動物園で一般公開されるとのことで、こども教室≪もんじゅ≫の小学校6年生の生徒K君とそのご家族、そして私、高橋門樹の計6人で見学に行きました。これは≪もんじゅ≫の個別指導コースを受講しているK君が、新聞記事書写課題でニホンライチョウの一般公開の記事を書写してきたことから始まりました。(本稿では個人情報保護の観点から、お名前はイニシャル表記とさせていただきます。)

 その記事を選んだ理由として、K君はお母様のご実家である富山県で県鳥となっているライチョウが気になったと言います。日本の天然記念物でありながら、地球の温暖化などにより絶滅の危機に瀕しているニホンライチョウを救う保全活動が政府の支援の下、日本各地の動物園などで行なわれていることを知りました。温暖化、絶滅危惧種、保全活動……これはきちんと調べてみる価値がありそうです。ご両親とも話し合い、ご家族と一緒に私も上野動物園へ「ライチョウ・リサーチプロジェクト」と題して調べに行くことになりました。

 ところで、皆さんはニホンライチョウをご存知でしょうか。約2万年前の氷河期に、ライチョウは日本と陸地が続いていたユーラシア大陸から日本へ移り住みました。氷河期が1万年ほど前に終わって日本と大陸が分かれると、それらは日本に残ることになり、ニホンライチョウと呼ばれるようになりました。ライチョウは現在でも北極圏で多く群生しているのですが、ニホンライチョウは世界最南端で生息するライチョウの亜種となっています。1923年に日本の天然記念物に指定されたニホンライチョウは、1993年に絶滅危惧種に指定され、現在、様々な保護措置が取られています。

 絶滅危惧種の繁殖と飼育の方法に関しては、動物園で展示されているライチョウを見るだけではよくわかりません。自分で本や資料を読んで勉強をした後に、動物園で専門家に話を聞くことができれば理解を深められます。上野動物園のホームページを見ると「動物相談室」があり、「動物についての質問、ご相談にお答えします」と紹介されています。さっそく電話をして「ニホンライチョウの繁殖・保護の取り組みについて子どもがレポートを書きたいので、お話を伺いたいです」と申込み、日時を予約しました。

 そして、園内にある資料室です。こちらは閉架式のため、自分で自由に資料類を手に取って閲覧することができません。事前予約が必要です。そこで電話をして、園訪問時にライチョウに関する資料と昨年に富山県のライチョウ保護団体の責任者が上野動物園で講演会を開催した時のチラシなどをご用意いただき、資料室で閲覧とコピーをさせていただきたいとお願いをしました。こちらからの一方的なお願いであるにもかかわらず、資料室の担当の方は二つ返事でご快諾くださいました。

 3月23日(土)に6人で9時30分の動物園開園前に着くと、すでに数百人の列ができていて、入場しできたのは9時40分ごろでした。3月15日から始まったばかりのニホンライチョウの特別展示は、見学客でごった返しているのではないかと心配したのも束の間、入場口すぐ左側にあるニホンライチョウの展示場に急ぎ足で駆け込むと、中はガラガラでした。入場客のほとんどは、向かいにあるパンダ舎にいる子パンダ・シャンシャンがお目当てのようでした。もともと動物園からの情報では、ライチョウの公開時間が午後10時からということでしたが(写真右)、9時40分ごろに入館した時には、すでに公開されていました。

 でも他の見学者が少ないおかげで、写真はガラス越しとはいえ、ライチョウをかなり近くから接写できました。展示室にいるライチョウは真っ白な冬毛で、ふっくらした鳩くらいの大きさでした。春になって夏用の羽への換羽を始めたところなのか、目の周囲と尾羽に若干の黒色が見られました。時折、フグのように体をボール玉のように膨らませていたのは、何かの自己アピールなのかもしれません(写真左下)。

 ライチョウは飛ぶのが苦手なキジ科の鳥らしく、ちょこちょことよく歩いていました(写真左上)。この習性が、温暖化により高地にまで進出してきた動物に捕食されてしまう原因なのだと納得できました。ニホンライチョウはあまり飛ばない上に、人から逃げないのが特質です。この後で行った資料室の職員さんも山岳地帯へ視察に行った時、ライチョウが目の前を逃げることなく歩いていたと言っていました。

 パネルの説明書きなども写真に収めてから、ライチョウの展示場は15分程度で切り上げ、事前に予約をしておいた資料室へ行きました。一旦園外に出て、上野東照宮の参道を通ってから動物園の通用門にいくと、門の脇にある守衛室では訪問予定者として名前が登録されていました。新築の管理事務所の2階へ上がり、ノックをしてから閲覧室へ入ると、すでに閲覧者用のテーブル上にライチョウ関連の専門誌や書籍などが並べてありました。

 資料室では上野動物園勤続数十年という女性職員のMさんが応対してくださいました。すべてのライチョウ関連の記事のページには、ピンクの付箋が貼ってあり、効率よく閲覧とコピーをするためのお心遣いがありました。生徒さんのお父様が資料のコピーをされている間、その傍らでMさんは動物園に関していろいろと興味深いお話を私たちにしてくださいました。

 例えば、お父様が「上野動物園は入園料が安くて、子どものいる家庭には助かります」と言うと、Mさんは、かつて上野動物園は隣接する国立博物館の付属施設で、人気があったためにかなりの収益を上げていた部門だったけれども、やはり博物学と動物学では扱う対象が違いすぎることから、1924(大正13)年に分離独立しことなどを教えてくださいました。また公営だからこそ研究活動など地道な活動もできる一方で、近年はビジネス的なマネジメントや最新の広報手法などの分野で動物以外の専門の方が園の経営に携わるようになり、公営動物園のイメージが変化しつつあることなども知ることができました。

 知的分野の専門職をされているお父様はコピーを仕事でもすることがよくあるとのことで、とても手際よくコピーした書類を分類していました。初めは白黒でコピーをされていたのですが、「動物の写真や図表が豊富な資料は、カラーコピーのほうがわかりやすいですね」とのことで、カラーコピーに切り替えていました。息子さんの勉強のためには、手間と費用がかかることもいとわない、ありがたい親心です。