先日の『東京新聞』で、大学入試に記述式が導入されることに関連するコラムが掲載されていました。冒頭部分を抜粋します。

*** 2016年4月7日『東京新聞』第1面「筆洗」
 大学入試でも記述式の問題がますます重視されるようだが、こんな問題が出されたらどう答えるか。「原発をめぐる、わが国の現在の社会通念を簡潔に述べよ」。これは難問だ。(中略)昨秋の全国世論調査では原発再稼働に反対する人が58%で、賛成が37%。だから「現在は原発をめぐって世論が二分し、社会通念と呼べるようなものはない」と答えるしかないのかもしれない。(後略)
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 原発再稼働の是非についての議論はここでは置いておくとして、本稿で取り上げたいのは、大学入試で記述問題が重視されるということです。文科相の諮問機関「中央教育審議会」はすでに大学入試改革に関する約30ページの答申(2014年12月公表)の中で、今後の大学入試において記述式テストを導入すべきであると説き、実際にその方針に沿って大学入試は動いています。その目的は「確かな学力を育むこと」(2ページ)です。

 例えば、同答申の中の「各大学の個別選抜改革」の項では「自分の考えに基づき論を立てて記述する形式の学力評価を個別に課すこともあってよい」(13ページ)と提言しています。また、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)の在り方」では「解答方式については多肢選択方式だけでなく記述式を導入する」、英語試験についても「記述式問題など」(15ページ)と書かれています。「高等学校基礎学力テスト(仮称)の在り方」でも、「解答方式については多肢選択方式を原則としつつ記述式を導入する」(18ページ)としています。

 こうした改革の背景として「わが国が成熟社会を迎え、知識量のみを問う従来型の学力や、主体的な思考力を伴わない協調性はますます通用性に乏しく」なっていることを挙げます(3ページ)。「知識量の多寡で進学先の難易度が決定される環境において、受験勉強が学習への動機づけになってきた。しかしながら、少子化の進展等により大学への入学が一般的に容易になっているため、それに対応して、従来のような受験勉強がそれほど必要でなくなっている」とも指摘します(4ページ)。

 本稿の冒頭のような政治判断を高校生に求めるような小論文テストが、日本の大学で出題されることは、現状では考えにくいでしょう。しかし、いつまでも日本社会が「政治と宗教の話題はタブー」ではやっていけなくなる時代が到来すると思われます。常に異民族・異文化との衝突が繰り返され、その対応に迫られるヨーロッパでは、若者にも政治に関する議論力が求められます。アメリカでも大統領選挙では高校生・大学生が共和党・民主党の選挙キャンペーンにボランティアで参加します。

 日本でも18歳人口の選挙投票が間もなく実現するのに伴い、若者が時事問題に関心を持ち、口頭でも文章でも自己意見を明確に表明できることが「確かな学力」の1つとして評価されるようになるはずです。上記の大学入試改革は、今の小学生6年生の入試から実施されます。今から小中学生向けの新聞などを読み、書写、要約、要点抽出などの練習をしておくことが、良い準備になると思われます。

(高橋門樹)