今年の3月31日、第60回全国珠算研究集会(全国珠算教育連盟主催、文部科学省後援)が東京の品川で開催されました。そこでのパネルディスカッションと研究発表の内容が、『全国珠算新聞』(全国珠算教育連盟発行)紙上で掲載されていますので、以下にその一部を紹介します。

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「今の時代は教育そろばん、学校そろばんの時代です。これは検定そろばんの時代とはちょっと違う面があります。そういうことを考えて、そろばんと算数との関わりを考える必要がある」。(岐阜聖徳学園大学教育学部教授・上垣渉氏)
「今、グローバルでいろんな能力が求められてくるんですね。学生の英語と国語力の欠如と共に問題になってきたのが、算数、数学です。その中で、やっぱり計算ができないということは、応用力にも引っかかってきます」。(愛知淑徳大学文学部教授・中野靖彦氏)
 「教室でも算数と関連付けて指導する必要がある。珠算式暗算の価値をもっと広め、社会にアピールしたい。」(神奈川県川崎市ANRY学習館塾長・安里利子氏)
「これからの高齢化社会では、今の学校教育そろばんよりももっと広く、『生涯そろばん』の時代が来るわけです。それに対応できるように『生涯そろばん』時代におけるそろばんはどうあるべきかを考えておく必要がある」(上垣渉氏)

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 こども教室≪もんじゅ≫スタッフにとっても、上記パネリストの発言は痛感することばかりです。計算機やパソコンが普及する前の20~30年ほど前までは、就職するにあたってそろばん検定3級以上を取得しておくことが、半ば事務員の必須技能でした。そうした就職のために習う「検定そろばん」の時代が過ぎ去った今、そろばんは小学校でほんの数時間だけ体験的に習う「学校そろばん」の時代になりました。かつてのようなそろばんの存在意義が、社会で見失われてしまったともいえるでしょう。
 しかし、そろばん経験者のほとんどが、そろばん習得にともなって計算能力だけでなく、学習時の集中力がきわめて高く向上することを経験的に知っており、お子さんに基礎的脳力を身につけさせるために、そろばん教室へ通わせる方が多くいらっしゃいます。とりわけ、何ケタもの数字の計算を一瞬にしてこなしてしまう暗算能力は、コンピューター全盛時代になっても重宝することに変わりありません。そろばん指導者たちは共通して、そろばんが「時代遅れの遺物」かのように認識されることに忸怩たる思いをし、現代において要求される学力にも貢献できることをいかにして明示できるかと、頭を悩ましているのではないでしょうか。
 ≪もんじゅ≫も、子どもの学力低下に警鐘が鳴らされている昨今、新しい脳力開発ツールとしてのそろばんの可能性を、わかりやすい形で提示していきたいと思っています。ただし実際のところ、計算能力の上達だけでは時代にニーズに応えているとはいえないかもしれません。20世紀までとは異なる21世紀タイプの「読み・書き・そろばん」。≪もんじゅ≫では「音読・書きとり」コースの併設や課外遠足、短期集中講習などを通して、語彙や教養の修得、五感を使った記憶力の向上、体験・参加型学習法による興味と理解力の増進などにも力を入れています。

    門樹