こども教室≪もんじゅ≫が開設している「音読・書きとり」コースでは、開講学年のすべてで古典作品の冒頭の暗唱をしています。幼稚園年長の生徒さんが今学期になって暗唱しているものに、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」があります。ご存知、「雨ニモマケズ、風ニモマケズ、雪ニモ夏ノアツサニモ・・・」で始まる詩です。(賢治はこの詩のほとんどをカタカタで書いていますが、ここではわかりやすくするために漢字とひらがなを交えています。)
 今週、「音読・書きとり」コースを受講している幼稚園年長の生徒さんが授業を終えて帰る時に、お迎えにいらっしゃったお母様が興味深いお話をされました。今学期、毎週この「雨ニモマケズ」を大きな声で音読しているそのお子さんが、家で小学校4年生のお兄ちゃんに向かって「『雨ニモマケズ』のどこがいいと思う?」と質問したと言います。
 突然の質問を受けて、なんのことやらわからずにキョトンとしているお兄ちゃんに向かって弟さんは、暗唱用ファイルを見せて「ぼくはね、『北にケンカやソショウがあれば、つまらないからやめろと言い』というところが好きなんだ」と言いました。テレビのニュースで事件があると、お母様が「みんな仲良く、平和なのがいいわよね」とおっしゃっていることの影響だそうです。
 それともう1つ、「1日に玄米4合と味噌と少しの野菜を食ベ」の部分も気に入っていて、そのフレーズも繰り返すそうです。「お味噌汁を飲もうね」あるいは「野菜もちゃんと食べようね」とお母様から言われているのかもしれません。でも、なぜか「4合」を「3合」で覚えていて、「1日に玄米3合」と唱えています。楽しんで覚えてくれるなら、3合でも4合でもかまいません。
  幼稚園児の弟と小学生の兄が、文学作品の好きな部分を語る「文学談義」をするなんて、じつに微笑ましい光景です。「デクノボウってなにかな」とか、「『ほめられもせず、苦にもされず、そういう者に、私はなりたい』って言うけど、なんでほめられたくないんだろう」など、素朴な疑問を持ってくれれば十分です。どこかで心にひっかかっていて、後々、賢治の思想に詳しく触れた機会に得心するきっかけになります。
 幼稚園児や小学生の本との接し方は、大人とは違います。大人から見て正しい意味を理解していなかったとしても、「なんだか面白い!」と思ってもらえれば成功です。難しいことは学年が進むほどに自然と理解できるようになります。いちばん大切なのは、子どもなりに本に興味を持つことです。長じて、自分から本を手にするようになります。子どもには、古典の暗唱と本の読み聞かせが効果的です。