日本最古の和歌をご存知でしょうか。以下の歌がそれです。

【和歌】 八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣つくる その八重垣を
【読み】 やくもたつ いずもやえがき つまごみに やえがきつくる そのやえがきを
【意味】 雲が幾重にも湧く出雲の地で、妻との新居によい場所を見つけた。妻のために垣根を幾重にも造ろう。

作者はスサノオノミコトです。古事記や日本書紀に出てくる伝説の神さまです。クシナダ姫を妻に迎え、新居を出雲の地に定めた際に、詠んだ歌です。夏なのでしょう。抜けるような青空に、幾重にも重なる白雲を前にして、丘の上に立った新婚夫婦の希望に満ちた表情がありありと浮かびます。

でも、スサノオノミコト(以下、スサノオ)がここに至るまでは紆余曲折と波乱万丈がありました。以下に「スサノオ物語」を少しばかり紹介します。

アマテラス大御神(おおみかみ)を姉に持ち、天界でも一目置かれたスサノオでしたが、その乱暴狼藉ぶりが目に余り、姉のアマテラスは頭に来るやら、周囲の神々に申し訳ないやらで、岩屋の戸を閉じて隠れてしまいます。いわゆる天の岩屋戸(あまのいわやど)の神隠れです。太陽神でもあるアマテラスが姿を消したので天界は暗くなり、神々が集まって相談し、策を練ります。岩屋戸の外でどんちゃん騒ぎをすることにしました。中には裸踊りをする女神まで出て大盛り上がりになると、アマテラスは「なにが起きているの」と思い、戸をそうっと開けてのぞき見をします。待ってましたとばかりに戸がこじ開けられ、アマテラスは引きずり出されます。これで明るさが戻ったと一同大喜びの大団円となったわけですが、騒動の発端をつくったスサノオは天界「高天原(たかまのはら)」から追放されました。恐らくアマテラスは性格が明るい高天原一番の姉ご肌だったのでしょう。若いにもかかわらず、周囲からは「姉さんがいてくれなきゃ、みんな困っちゃうよ」と頼りにされていたと思われます。

一方で堕神として地上界をさまよっていたスサノオは、八頭八尾のヤマタノ大蛇(おろち)に苦しめられている親娘に出会いました。スサノオは娘のクシナダ姫を許嫁にして、親子のために大蛇と戦うことを決意しました。「おれだって高天原の神のはしくれだ」と、自分を追い払った神々に自分の義行を見せつけてやろうと思ったのでしょう。クシナダ姫をクシに変化(へんげ)させて護符がわりに自分の髪に挿し、大蛇と血みどろの戦いを繰り広げ、見事勝利を収めたのです。すると不思議なことに、大蛇の体内から太刀が出てきました。見事な宝剣です。姉のアマテラスに迷惑をかけ通しだったことを気に病んでいたスサノオは、姉にそれを贈りました。自分の粗暴な行ないをかばい続けてくれていた姉へのせめてもの恩返しでした。後にこの剣は、草薙(くさなぎ)の剣と呼ばれ、天皇家の三種の神器の1つとなりました。

そして、晴れてクシナダ姫と結ばれたスサノオは新居を探して、出雲の地で「妻ごみ」(妻がこもる場所、つまり新婚家庭)にちょうどよい場所を見つけ、新居の造営にとりかかりました。好き放題をし過ぎて故郷では居場所がなくなってしまったスサノオが妻を娶り、初めて安息の地を見つけたのです。冒頭の歌は、その時のものです。その土地を見て、スサノオが「すがすがしい」と口にしたことから、その地は「すが」と命名され、今でも須賀という地名で残っています(島根県南雲市)。スサノオの物語には、まだまだ続きがあるのですが、ブログで書くには長くなってしまうので、ここまでにしておきます。

日本では「世界最古の長篇小説」とも呼ばれる『源氏物語』がありますが、それよりさらに300年ほど遡ると、このスサノオの物語をはじめとして民俗性あふれる神話や歴史が満載された『古事記』が編纂されています。712年のことです。一昨年の2012年は、『古事記』編纂1300年ということで、『古事記』関連の書籍が多く出版されました。日本人は子どもの時分から、もっと日本神話を読んで楽しまなければ、もったいないと思います。≪もんじゅ≫では、お子さまたちにそうした神話に少しでも親しんでいただくよう、「天の岩屋戸」や「ヤマタノ大蛇」など、一部の抜粋を子どもたちに紹介しています。

   門樹